写真:
 PCA National Specialty Show 1999より
 Country Manor Sedrik
   この犬は、以前は普通の毛でショーイングされていましたが、
   後に写真のようにコーディッド・コートに仕上げられました。
コーディッド・コートについて

 今から200年ほど前、1800年代後半から1900年初頭、コーディッド・コート(縄状毛)のプードルは珍しいものではありませんでした。19世紀の末、イギリスのスタンダード・プードルのほとんどは、コーディッドであったといいます。イギリスにおける最初のスタンダード・プードルのチャンピオン犬はアキレスという名の犬で、この犬は体高23インチ(約58.5cm)そのコード状の被毛は30インチ(約76cm)の長さだったと記録されています。この頃、絵画にもこのような縄状で地面に届くほどの長い毛をしたプードルが描かれています。この縄状の毛をきちんと維持するため、当時のグルーマー達はパラフィンでこの縄状の毛を包み、オイルで保護しました。こうした特殊な手入れ方法と、縄状毛の犬を洗うことは大変な手間で頻繁に洗うことが難しかったため、当時、コーディッド・コートのプードルは不潔で臭いという認識があったようです。
 第一次世界大戦の頃からコーディッド・コートのプードルの人気はすたれ、その後ついに1959年にアメリカのプードル犬種標準書から「コーディッド・コート」の記載が一旦削除されるに至ります。しかしながら、それから約20年後の1978年、新たに採用された犬種標準でコーディッド・コートの記載が復活し、展覧会に出陳できるようになって現在に至っています。

 この年、プロ・ハンドラーの Michael Pawasarat は現代にこのコーディッド・プードルを甦らせる決心をします。彼はブラックのスタンダード・プードル(メス)を、コーディッド・コートで、しかもただ毛を伸ばしただけという古いスタイルではなくショースタイル(コンチネンタル・クリップ)に仕上げて甦らせました。当時の雑誌インタビューによると、当初彼がその犬を展覧会に出した時、ジャッジの中には(汚くて臭いと思って)触るのを嫌がるような人もいたそうです。この時の犬が Hasting's Ten。彼は被毛をコード状にするために洗った後は通常のブラッシングをせず、ドライヤーは使用していたもののほぼ自然乾燥に近いかたちで犬を乾かしていたそうで、乾くまでにかなりの時間がかかったようです。

 プードルの毛はブラッシングせずにほうっておくとある程度は自然に細かい縦ロールになります。コーディッド・コートのプードルの毛と、通常のプードルのそれとは同質であるのか、あるいは毛質そのものが全く違うものか、という点は、人によって、また資料によって多少の意見の違いがあります。
 私が PCA で話をしていた Pat に言わせると「違うものである」とのこと。後日送ってもらった毛を見ると、確かによりウーリーな(羊毛状)毛質であると感じます。彼女が言うには、きちんとしたコードになる毛は通常のものと違い、さらにそれがコード状になるかならないかは「実際にやってみないとわからない」部分もあるとのことでした。手元にある資料類には毛質が根本的に全く異質なものであるとは述べられていませんが、コード状になる毛かどうかの見極めについてはある程度知ることができそうです。それによると、洗った後一切ブラシをせずに、自然乾燥させてみる。この時に「自然に」毛が縄状に絡んでいくようなものであれば、それはコーディット・コートに「作り得る」ものである。コーディッド・コートは人工的に作れるものではなく、自然にそのように成りえるかどうか、がカギのようです。このあたりが多少「毛質の差」にあるのかもしれません。資料によっては、「よりウーリーなタイプの毛」がなりやすいとの記述が見られるものもありましたし、また、別の本では、プードル本来の正しい毛質であれば、コーディッドにできると書いてあるものもあります。

 Michael pawasarat がコーディッドを最初に作り上げた時に協力を求めたのは、コモンドールのブリーダーでした。プーリーのグルーミング方法がコーディッドを作る上で大いに参考になるという意見も他から聞いたことがあります。
 きれいなコードを作るため、また、そのコーディッド・コートを最適に維持するためのにはやはりかなりの手間と時間がかかるようです。一旦普通に毛を伸ばした後コードを作るには、半年ほどかかるそうです。全身の毛をくまなくブラッシングあるいはコーミングしたり、スプレーを使った一種技術が必要で手のかかるショー用のセット・アップという手間はありませんが、シャンプーそのものも通常よりも時間と手間がかかります。また、適切なコードに仕上げるために毛を細かく分けていく作業など、かなりの時間と努力が求められるといいます。ショーイングするためには、通常のプードルと並べて遜色がない、むしろより良い個体を選んでコーディッドにするべきだという意見もあります。

 右の写真二つはPat Aloe Stauber の飼っていたアプリコットのコーディッド・プードルとその犬の毛

 いずれにしろ、グルーマーにとってもショー・チャレンジャーにとっても、そして犬そのものの負担としても、コーディッド・スタイルに仕上げることはある意味「チャレンジ」であるようです。コーディッド・プードルは通常の毛のプードルとは犬が違うのではないかという議論も一部あるようですが、現状を見る限りでは、同一であり、毛質と手入れ方法の多少の違いが生み出すものではないでしょうか。ちなみに、イギリスのブリード・スタンダードには corded coat の記載が見当たりません。

参考資料:The Poodle Review(遠い記憶より)
     The Book of Poodle, Anna Katherine Nicholas, 1982 T.F.H. Publications, Inc. LTD.
     The NEW POODLE, Aackey J. Irick, jr, 1986 Howell Book House Inc.
     A Dog Owner's Guide to Poodles, Jackie Ransom, 1987 Salamander Books Ltd.
     Dog Breed Hand Books; Poodle, Bruce Fogle DVM, 1997 DK Publishing Inc.
     The Complete Standard Poodle, Eileen Geeson, 1998 Ringpress Books
     Popular Dogs Series; POODLES, 1999 Fancy Publications
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