【著 者】 Vicki DeGruy |
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股関節形成不全(HD)は雑種も含む全ての犬に見られる遺伝性疾患の一つです。発生については複雑な遺伝形態を持つとされ、また、症状も軽度から起立不能に陥るほどの重度まで差があります。現在はっきりとしていることは、この病気は確実に遺伝するものであり、例えどんなに軽度であろうともHDの個体は繁殖に用いるべきではないという事実です。その為には繁殖する前にHDであるか否かの検査は本来欠かせないものです。
Vicki の記事はアメリカの雑誌に書かれたもので、HDを巡る状況などは現在の日本と差もその扱いの違いもありますが、HDへの警告、その排除の必要性については同等です。まだまだ情報も少ない現在、この記事によって学ぶ点が多いと考え、著者の快諾を得て翻訳した上で転載するものです。 オリジナルの「HDTHGH.TXT」は、CompuServeのペットフォーラムグループ内、Dogs Forum ライブラリー上にあります。 |
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21世紀に近付くに従い、犬の繁殖においては大変な進歩が見られています。ブリーダー達は以前より教育され、学ぶ機会も多くなりました。VTRの使用は犬の発展を記録し、歴史的な関連を提供しています。科学者は遺伝学について、また、どのように欠点が受け継がれていくかを更に知るようになりました。血液検査は繁殖をより容易に、正確なものにしました。そして最も素晴らしいことに、研究者は犬の染色体の中に発生のマーカーを見つけ出し、それによって「繁殖以前に」欠点を発見していこうとしているところです。いつの日か簡単な血液検査によりトッププロデューサーとなるかもしれない犬が遺伝的な問題を抱えているかどうかを、その血統を固定する前に知ることもできるようになるでしょう。<注1> しかし、すぐにでも使えそうなこのような便利な方法を私達は果して使うでしょうか?20年ほど前、チャンピオン Elster's Gee Nee of Chia Hsi が OFA CC#1、つまり、OFAでX線診断によって股関節形成不全ではないと証明ナンバーを発行された初のチャウチャウとなりました。それ以降、50万頭以上のチャウチャウがこの世に産まれていますが、OFAナンバーを持っているのは2000頭以下です。障害となる病気を防ぐ為に、これほど簡単で安い方法だというのに、多くのブリーダー、しかも有名だったり経験豊富な人達でさえ、繁殖用の犬達の検査を拒んでいるのです。それだけではなく、HDやX線診断について誤った情報や確信性のない話を広めていたりしています。 なぜブリーダー達はX線検査をしないのでしょう?今までに私が聞いたり経験したことから、その理由のいくつかをみてみましょう。できることならば、このことにより、小数の人にでも相手の態度をどう考え、深刻な問題に対して目をつぶる前に信頼できる情報を求める為の手助けになればと思います。 「犬への麻酔の影響を考えるとそんなリスクは負えない」 麻酔は犬をリラックスさせ、X線撮影をしやすくするものですが、OFAは診断に際して特に麻酔を必要とはしていません。事実、最近OFAから”優良”の診断をもらった2頭のチャウチャウも麻酔やそれに類似するものも受けませんでした。今日、医学進歩により、何種もの短時間麻酔薬や精神安定剤があり、それらは以前と比べて安全だとされています。腰のX線撮影によって犬を死に至らしめてしまうリスクは、よくある手術-眼瞼内反症や帝王切開-などよりも遥かに少ないのです。 「検査費用が高すぎて、とても支払えない」 腰のX線撮影、もしも必要であれば麻酔、そしてOFAの承認番号を取るのには、100ドルもかかりません。それをブリーダーが自分の台犬に投資する額と比較してみてください。ショー用の子犬の値段、それを育て上げタイトルを取らせ繁殖に使うまでには何千ドルもかかるでしょう。将来それが障害を抱えるようになった時に、あらたに代用できる犬を買えますか?まるっきり最初から繁殖のプログラムを組み直すだけの資金がありますか?もしも、X線検査を受けなかったあなたの犬がHDの子犬を産んだ時、あなたの名誉に対する代償を支払えますか?(そのような事態になった時、誰が責任を追及されるかはおわかりですね?)X線診断を受けない、というリスクを背負えますか? 「私の犬の歩様は正常だから、形成不全の訳がない」 これは、X線診断を受けない理由としてもっともよく使われる言い訳です。ここに、すでに何度も繰り返されている事実があります。「HDはX線診断によってのみ正確に診断が下される! ここに、「私の犬の動きは正常だ」神話をそのまま描いた私自身の体験が二つあります。何年も前ですが、当時パピーでタイトルを取った犬がおり、それに交配したいという人がいました。その子はメス犬の飼い主の要望でX線診断を受け、わずか11カ月でかなりの形成不全だと判明しました。その子は交配には用いませんでしたが、成犬になった時、特別扱いでショーに出陳したのです。その時、彼は非常に良く、その歩様の良さに感心するばかりでした。その後5歳の時、関節の状態が変化し、HDの症状がひどくなって安楽死させざるを得なくなったのです。 「私の犬はOFAを受けるには歳を取りすぎている」 OFA は過齢による骨の変化を考慮しています。9歳や10歳のチャウチャウでもOFAナンバーを得ていますし、死後のX線検査で得たケースもあります。 「OFAなんてごまかせるじゃないか」 確かにノーマルな子を違う犬名でX線検査するような悪い人もいるでしょう。SKC だってごまかすこともできましょうが、それでも私達は犬の登録をしているのです。ドッグショーでのごまかしもあるでしょう。けれど、それでも我々の多くはチャンピオンの名誉を求めています。私達は自分達が正直であるかどうかよくわかっています。もしも、自分達の仲間のブリーダーをよく知っていれば、誰が正直か、正直でないかわかるでしょう。たとえ誰かがOFAナンバーを不正に得たとしても、それが私の犬のOFAナンバーの価値を下げる訳ではありません。もし、誰からもごまかしだと言われたくないのであれば、個体識別がはっきりするように犬に入れ墨を施せばよいのです。 「OFA承認の犬だって形成不全の子犬を生み出すのだから、X線検査は時間の無駄でしかない」 残念ながら、この言い訳の前半は事実です。股関節形成不全は多遺伝子性の欠陥です。多遺伝子性というのは、いくつかの遺伝子が組み合って特定の形質を作り出す、ということです。HDは一世代や二世代で排除できるような単純な遺伝ではありません。調査機関からも、それぞれの繁殖計画からもHDクリアの犬達を用いて繁殖をすることにより、形成不全の仔犬の確率を減らせると示されています。いくつかの遺伝的要素が要求されるのですが、血統書に書かれた先祖全てにOFAナンバーが発行されているということは、良い遺伝子がたくさんありうるということです。X線検査を受けなければ、どんな遺伝子を組み合わせているのか知るよしもないということです。 「腰と同じくらい他にも重要な問題があるではないか」 そのとおりです。悪い膝、肘、目、飛節、脊髄の病気、悪い気性、ホルモン状態などなどは、全て深刻でひどい問題です。腰がいいだけで、あるいは悪いということだけで、繁殖のプログラムからすぐに外してしまうこともないでしょう。犬全体の状態が考慮されるべきことです。 多くの問題はそれでも目に見える事です。飛節が悪かったり、気性が悪い場合は簡単に見分けることができます。しかし、HDは目に見えない場合があるのです。許容範囲の歩様を示したり、犬は痛みに対してとても忍耐強かったりして、HDが隠されてしまうことがあるのです。 あるブリーダーはX線検査をしながら、そのフィルムをOFAに提出しません。それに対する言い訳はこのようなものです。 「6カ月の時の予備検査でクリアだった」 このような表現は、若い種雄の広告でよく見られます。OFAは理由あって、2歳以下の犬には承認番号を発行しません。仔犬はHDなどまるでなく産まれます。この病気は成長と共に現れるのです。6カ月の仔犬は、成犬になった時の体高、体重、骨格ではありません。よほど状態が悪くない限り、ほとんど全ての仔犬の腰は6カ月時点ではとても良く見えるのです。先に書いた18カ月の犬の場合でも、6カ月時点での最初のX線検査は正常でした。1歳で予備検査をしたとしても、それが2歳になった時にもOFA「良」という評価を得られるという保証はないのです。なぜなら、それでもまだ骨格は完全に出来上がっていないからです。予備X線検査はよいのですが、それは誤解を招く元ともなります。 「うちの獣医もOFAと同じくらいX線診断ができる」 必ずしもそうとは限りません!OFAディレクターのコーレイ博士によれば、だいたい60%ほどの獣医師が形成不全のX線写真を良否共に誤診するとのことです。なぜならば、それぞれの犬種によって骨格構造がわずかながら違うからで、チャウチャウの腰はジャーマン・シェパードやゴールデン・レトリバーのそれと同じではないのです。もしもあなたの主治医がわずかなチャウチャウのX線写真しか見ておらず、しかも彼の診断がシェパードの正常な股関節を基準としていたならば、正常なチャウチャウさえも形成不全だと判断するかもしれません。OFAでは、チャウチャウのX線写真は他のチャウチャウのものとのみ比較診断されます。ゴールデンやシェパードと比較することはありません。私達が普段かかっている獣医達も「一般開業医」ですが、スペシャリストではないのです。OFAに送られたX線写真は3人の放射線専門医によって診断されます。彼らは犬の骨格やX線の読影について精通している医師です。 「私の犬はX線診断でクリアだった。それでもなぜOFAナンバーが必要なのか?」 あなたは自分だけで繁殖をする限りにおいては、OFAナンバーを必要とはしないでしょう。けれど、他の人の交配に応じたり、将来その子の孫までがそのような立場になるであろうブリーダーには必要なものなのです。「X線診断はクリアだ」という言い分は、あなたの誠実な人柄を知らない初心者には意味のない言葉です。なぜなら、不幸なことに全てのブリーダーが誠実ではないからです。初心者に必要なのは、どの犬を繁殖に使うべきかを決定する為のはっきりとした情報なのです。OFAナンバーは今日のみならず、将来への繁殖においても、ただの道具以上のものです。私達や、私達の犬がこの世を去った後でも、その血統と遺伝の基礎は未来のチャウチャウを愛する人々へ受け継がれていくのです。犬が本当にX線診断でクリアだったかどうかを確かめられずに、どうやってそれを信じることができるのでしょう。疑いの種はそこに蒔かれるのです。OFAナンバーを取得すれば、そのような疑いはこの先もなくなるのです。 どんなにテクノロジーが進歩しようと、良い犬を作りだそうという繁殖はいつでもリスクと知識に基づく憶測を伴います。 私達は常に悪いものよりも良いものを優先させる為の見返りや妥協を余儀なくされます。キーワードは「教養ある」です。以前に比べると私達は繁殖の決定において手助けとなる手段を遥かに得ています。私達は本や雑誌、獣医師や他のブリーダー、他の犬種から学ぶことができます。新しい情報はほぼ毎日のように得られます。必要なのは情報を分かち合い、もっと学び、良くしていこうと欲求する、正直で広い心です。 全てに対する答えを示せる本も人もないでしょう。誰も私達に強くは言えないでしょう。私も何か問題がある犬を繁殖するべきかどうか、問題が起きた時にどうすべきかをあなたに指図することもできません。しかし、問題をみつけ、調査するのを助け、また、その問題はどこにあって何であるか、どのように防ぐのかを示す新しい手段が常に明らかにされているのです。このような新しい手段は使わない限り無駄でしかありません。私達が知らずにいる事が、私達を、ことに私達の犬を傷つけてしまいます。手に入れられる手助けが現実にありながら、それを無視する事は言い訳にはならないのです。 |
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(注) OFA:The Orthopedic Foundation For Animals の略称 主に、股関節形成不全、肘関節形成不全のX線診断とその登録をし、問題がない犬に対して Fair(可)、Good(良)、Excellent(優良)の3つのランクで評価した上、犬種ごとに承認番号を発行しています。 股関節の診断方法として、OFA とは別に現在、PennHIP方式というものもあります。PennHIP は認定獣医師のもとで5枚のレントゲン写真をとり(OFA は1枚)これを診断します。 右の写真は、OFA による、Excellent の評価がされた証明書。(菜々子のものです) 問合せ先:THE ORTHOPEDIC FOUNDATION FOR ANIMALS(クリックするとホームページへ行きます) |
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HD:Hip Dysplasia 股関節形成不全のこと。文中のほとんどで、HDと略称にして記しました。 AKC:American Kennel Club <注1> |
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