若年性腎疾患=Juvenile Renal Disease / Dysplasia (JRD)

 若年性腎疾患とは、その名のとおり「若年齢」=子犬の時期から発症する腎臓の病気です。先天性腎形成不全(異形成)と言われることもあり、多くの犬種にみられます。
 スタンダード・プードルにおいてJRDは、通常、その多くは非常に若い子犬のうち(ごく早ければ生後数週間)から症状が始まります。初期症状としては、多飲・多尿、濃縮されずに薄い尿が出るといったものがあり、子犬によっては尿漏れを起すこともあります。こうした子犬のオーナーは、トイレのしつけがうまくいかない、できないと勘違いすることもあるようです。中には発症が遅いケースもあるようですが、ほとんどが2歳までには腎疾患の症状を呈し、3歳齢前に亡くなるようです。中には発症が遅かったり症状がマイルドなケース、片方の腎臓のみに病変が現れるケースもあります。そうした場合は食餌療法などによってもっと長く生きていかれるようです。

 腎疾患は症状が進むと嘔吐、体重減少、食欲減退、嗜眠、筋力の低下といった症状が見られるようになります。最終的には腎不全を起して亡くなってしまうわけですが、問題はこうした腎疾患が大人の犬ではなく極若年齢の子犬のうちから引き起こされ、健康であれば命を失うことなどまず考えないような1〜3歳齢で亡くなってしまう、ということです。スタンダード・プードルにおいてこの若年性腎疾患は遺伝的な問題であると認識されています。

 スタンダードプードルにおける若年性腎疾患に関して問題提起をし、血統データベースを作り、各方面に働き掛けたのがスーザン・フライシャーです。1990年に愛犬のジョージを若年性腎疾患のために21ヶ月という若さで安楽死せざるを得なくなったことが、彼女がこの遺伝性の腎疾患に取り組むきっかけになりました。
 彼女はその後、オンラインではおそらく一番大きいと思われるプードルのオープン・レジストリー Poodle Health Registry の立ち上げに関わりました。スーザンは2007年6月17日に残念ながら亡くなりましたが、そのデータベースのメンテナンスを亡くなる10日前までやっていたそうです。

カナダDogeneによるJRDの遺伝子検査と遺伝モード

 2007年3月、カナダのDogene Inc. が、JRDの遺伝子検査を開発し、サービスを開始すると発表しました。
 スーザンのサイトによると、JRDの遺伝モードはほとんどの犬種で常染色体劣性遺伝、いくつかの犬種においては不完全浸透度をもった常染色体劣性遺伝の可能性がある、となっています。(Dr. Padgett, Michigan State University)しかし、今回のカナダのDogene の発表によると遺伝モードは「不完全浸透度をもった常染色体優性遺伝」となっています。

 通常の優性遺伝の場合、キャリアの存在はなく、両親それぞれからひとつずつ受け継ぐ遺伝子のうち、片方だけでも病気の因子を持った変異遺伝子であれば発症します。しかし「不完全浸透度」をもつため本来ならば1つの変異遺伝子で発症するはずの優性遺伝であっても、必ずしもJRDを発症するとは限りません。それゆえにDogene の遺伝子診断では、本来優性遺伝の場合使われない「キャリア」という判定表現を用いているものと思われます。
 「不完全浸透度をもつ優性遺伝」は、受け継がれた突然変異の遺伝子がその個体において変化を起すかもしれないし、起さないかもしれない、といういわば曖昧な状況です。
 浸透度とは、遺伝子が発現する割合、または頻度のことを言います。浸透度が75%であると仮定した場合、4頭のうち3頭が発症する計算になります。Dogene によるとJRDの場合、浸透度は低く、およそ5%であろうとのことです。そのため、キャリアのうち実際にJRDを発症する個体は多くないとみられます。しかしながら、キャリアはJRDの原因遺伝子を確実に子孫に受け渡しますし(クリア×キャリアで50%がキャリア)キャリアが何かのきっかけでJRDを発症する可能性もあります。このため、遺伝子検査でクリアか、キャリアの特定をすることは将来の繁殖計画においては大変重要なことになります。(アフェクティッドは致死ですので、おそらくその多くが繁殖年齢に達せずに亡くなるか、あるいは繁殖不適と判断されるかと思われます。)
 JRDの確実な診断方法は、腎臓の生検(biopsy)です。生検により、腎臓に明らかな異常がみられても症状を示さないものから、重度の腎不全の症状を見せるものまで幅があるようです。

 遺伝に関する参考URL:メルクマニュアル家庭版 gooヘルスケア

遺伝子検査とその結果、信憑性について

 Dogeneでは、スタンダードプードルだけでなく、ボクサー、ラサアプソ、ミニチュア・シュナウザー、シーズー、ソフトコーティッド・ウィートンテリア、ケアンテリア、ラブラドール・レトリバーのJRDの遺伝子検査が可能となっています。
 2007年7月の段階で、Dogeneラボによるとスタンダード・プードル100頭ほどの検査結果で約6割がキャリアの判定だったそうです。

 しかしながら、Dogene における検査の信憑性に関して、もう少し様子を見て待った方がよいのではないかという意見がアメリカで出始めてきています。その理由のひとつが、Dogeneから正式な獣医学会においてこの遺伝子検査に関する研究発表などがない、というものです。この理由をもってOFAも現時点で、JRDの遺伝子検査のデータベース登録は行っていません。

 私のところでは、リアン、ジャニス、ケイトの親子の検査をした結果、親のリアンがキャリア、ジャニスがクリア、ケイトがキャリアという判定になりました。先に書いたように、ラボの発表通り優性遺伝であれば検査時点で6歳のリアンが今、何がしか病気の影響を受けていてもおかしくないところですが、現時点では病気の疑いすらもありません。
 検査の信憑性、劣性遺伝/優性遺伝と見解が分かれている点など、今後まだまだ研究の余地がありそうです。遺伝子検査を参考までに受けてみる価値はあると思いますが、結果に関しては今後の研究、発表を待った方が良いかもしれません。
 いずれにしても繁殖を考えるのであれば、オス、メス双方の先祖、兄妹も含めて腎疾患で若くして亡くなった犬がいる系統でないことの確認をすることは当然であると思います。

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 現時点において、JRD DNA テストの信憑性に関してこちらで100%の保証はできませんので、テストをするかどうかはご自身の判断で行ってください。テストに関する問いあわせは、直接カナダのDogeneの方にしていただけると幸いです。

Reference:Juvenile Renal Disease In Standard Poodles(スーザンのページ) dogenes.Inc

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