足指に発生する扁平上皮癌(toe cancer = SCCD = squamous cell carcinoma of the toe)

新情報(2013年)あり

 これは爪床上皮に発生する悪質な腫瘍で、遺伝性疾患の疑いが強くあります。

 扁平上皮ガンについては、外傷や発ガン性化合物との接触が疑われていますが、指に発生する腫瘍の原因は不明です。足指に発生する扁平上皮細胞腫瘍は慢性の爪床感染によるものであるとされていました。
 足指の扁平上皮ガンをもったほとんどの犬が、指にしこりがあるという理由で診断に訪れます。びっこを引いていたり、潰瘍があったり、爪が裂けたり割れたりする症状もよく報告されているもので、膿皮症や爪囲炎と誤診されることがしばしばあります。
 黒い毛色で大型の犬、例えばラブラドールやジャイアント・シュナウザー、そしてスタンダード・プードルがこの病気にかかりやすいようです。これらの犬種では、2〜4年の間にガンが複数の足指に発生する場合があります。

 足指に発生する扁平上皮ガンは位置的に進行しやすく、渙散=リーシス(骨の腐食と悪化)はレントゲン検査によって8割以上が明確にみとめられます。近くのリンパ節や臓器に扁平上皮ガンが移転しないよう、ガンに冒された足指の切除が必要となります。

 SCC の平均的発症年齢は9歳ですが、スタンダード・プードルでは4歳の若さで診断されたケースがあります。
 診断は冒された足指の組織病理検査を行うことにより決定されます。


スタンダード・プードルにおける足指のSCCD 登録

 SCC 登録は、足指の扁平上皮ガンと診断されたスタンダード・プードルの情報登録です。すでに犬が亡くなっていてもかまいません。ブラックのスタンダード・プードルはこの悪性腫瘍にかかりやすいとされています。

 この登録の目的は、情報を収集するだけでなくスタンダード・プードルにみられる足指のガンについての警告を発することでもあります。情報を収集することで、スタンダード・プードルにどのくらいこの病気が発生しているのかを知ることができます。

 オタワ大学(カナダ)のジョン・アームストロング博士がこのタイプのガンが遺伝性かどうかのデータ分析を引き受けています。登録された内容は極秘扱いにしますが、登録の際は他との関係を把握するためにも犬名は必ず記入してください。SCC の研究以外に使われることはありません。研究のため、この病気にかかった犬の登録にご協力ください。

 このページは Lynn Wilkes のご好意と協力により作成しています。<オリジナル・サイトへ行く>

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 2001年にオタワ大学のアームストロング博士が急逝されて、一時期研究がどうなっていたか不明でしたが、その後、この研究はアメリカ国立衛生研究所とUCLAが共同で研究を重ねてきました。(対象犬種はスタンダード・プードル、ジャイアント・シュナウザー、ブリアード)
 その結果、2013年3月になぜブラックのスタンダードプードルやジャイアント・シュナウザーに多く発生するのかのメカニズムがわかってきました。

 メラノサイト成長(melanocyte development)に関与する遺伝子(KITLG)のコピー数変化が、この病気の発症に深く関わっているということが判明したのです。ブラック以外の明るい色(ホワイト、クリームなど)のスタンダード・プードルも実はこの病気のリスクとなる対立遺伝子を持ちあわせるのですが、MC1R 遺伝子座(メラノコルチン1受容体=注:毛色に関与します)中の変化によってSCCDのリスクを免れている可能性が高いというものです。つまり、SCCD発症(ガン腫瘍の形成)には、KITLG及びMC1Rという2つの遺伝子座が深く関わっている可能性が高いということが今回判明しました。

 研究文献(PDF)はこちら

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 ブリーダーでもない、いち愛犬家であり、プードル愛好者であるカナダのLynn Wilkes ひとりから始まったこの病気へのアプローチ。彼女の情熱と犬種に対する愛情が今回このような形になったことに、あらためて感銘を受けます。

<2013.6>


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