菜々子のブロート・ヒストリー
2002年5月
菜々子は11歳6ヶ月で初めてブロートを起こしました。菜々子の性格からいって、ブロート・リスクは少ないだろうと楽観していました。話に聞く範囲で、遺伝的要因からブロートを起こすものは、もっと若いうちに(2〜4,5歳)起こしているからです。菜々子の場合、親や兄弟・親戚縁者についての情報が一切ありませんので断言はできませんが、この年齢まで特に問題なく過ごしてきていたので、ブロートの心配は実はこの時まで全くしたことがありませんでした。そんな菜々子も歳は確実にとっており、残されていた加齢リスクは侮れないのだ、と感じた事件でした。
菜々子のブロートは食後1時間半〜2時間ほどで起こりました。物がつかえた時に咳き込むような感じで、吐きそうな様子を見せながらなんとなく不安そうにしているうちに、あっと言う間に胃が膨張してきました。本人も苦しくてなんとかしたいのにどうしようもないのか、何かから逃れるように慌ててうろうろ激しく歩き回りはじめました。胃が膨らんで腸も圧迫されるため、脱糞してしまいます。胃の膨張は恐ろしいほどで、最終的には胸郭よりも胃部の方が広くなってパンパンになっていました。
この時は車で30分以上かかる遠い病院まで担ぎ込んで、なんとか口から胃にチューブを挿入してガスを抜いて助かりました。確認のために前後でレントゲンを撮り、翌日も念のためもう一度病院に連れて行きました。ブロートが起こってから時間が経っていたにもかかわらず、幸いなことに捻転せずに済んだのでその後は一回分の食事を小分けにして時間をかけて与える、食後3時間は様子を見るということに注意していただけでした。あれだけのことがあったのに、本人はガスさえ抜けてしまえばケロっとしていました。
2003年6月26日
2度目のブロートは最初のブロートから1年経って、こちらもブロートの脅威を忘れている頃に突然きました。この時もやはり食後2時間ほどでした。
寝ていた菜々子が起きだして、ねぇねぇ、としつこく手をかけてくるので変だな?と思いながら様子を見ているといきなり吐こうとし始めました。ところが何も吐けないので、これはブロートでは?とすぐに気づき、そのまますぐ病院に連絡を入れ即座に病院まで車で向かいました。
この時も捻転はなかったのでチューブでガス抜きをして収まったのですが、未消化のものが(グリーニーズのかけら、食後におやつでもらったキャベツの芯(生)のかけら)チューブに詰まってガスを完全に抜くまでに時間がかかりました。胃洗浄をしながらの作業で2時間ほどかかって菜々子も前回に比べると体力を消耗して気の毒でした。
この2度目のブロートの後、調子のいい時に思い切って胃袋固定の手術をすべきかどうか実は迷いました。もし菜々子がもっと若いのであれば(10歳以下)手術をすぐに決断したのですが、12歳にもなってそろそろ心臓もガタがきはじめている状態での手術には抵抗があり、決断しきれないままでした。
2003年9月10日
いくらなんでもそんなに頻繁には起こらないだろうと思っていたブロート、ついに恐れていた3度目が起こりました。やはり食後2時間ちょっとです。さすがにこの時はすぐにわかって即座に獣医に連絡をとったのですが、今まで処置してもらっていたところがどうしても都合がつかず、急遽、夜間の緊急時に対応してくれる別の病院に駆け込むことになりました。
今まで無事だったけれど、いくらなんでも3度目だからもう無理かもしれないという不安を抱えつつ、救急で行きつけではない所に飛び込みました。
救急外来は大変だとは思います。獣医師も人間ですから24時間闘えないので、若い研修医が夜間当直になるのもわかります。でも、さすがにブロート3度目ともなれば素人の私の方が処置については経験の浅い若い先生方よりも明るい部分があって(苦笑)正直、担当の先生の言動その他、当初はかなりイライラしてしまいました。
余談:馬のブロートではないのですから、3メーターもありそうな長いチューブ、持ってこないでください。。。(泣笑)どう考えてもそれではガスは引けないです。。。大型犬ではあり得る緊急事態なので普通のチューブ、すぐ出せるところに置いておいてください。一秒を争うのです、お願いします。。
まぁ、なんだかんだ大変だったのですが、胃洗浄をしながら明け方近くまでかかって事無きを得ました。ただ、さすがに3度目で菜々子の状態はあまり良くはなかったのも事実です。
この時、いざとなったら自分で処置できるようにブロート緊急処置キットを手元に置かねば!と決意しました。
2003年9月22日 緊急手術
今年に入って2度もブロートを起こし、私は更に菜々子の食事の与え方には気を使っていました。普段から食事は全体の約3分の1をふやかしたドライフード、3分の1をシニア系の缶詰めなど、残り約3分の1弱を生肉、時々納豆や野菜の煮たものなどで、なるべく消化の良いものにして全部食べ終わるまで30分以上かかるよう小分けにしていました。前回のブロートで胃洗浄の時に未消化で出てきたものはドライフードでした。ドライフードは二種類混ぜていましたが、色から判断して最後まで未消化だったと思われるタイプのドライフードは与えることすらやめていました。
この日、私は仕事でセミナー会場で出店していました。丸一日菜々子を付きあわせることはストレスにもなるので、実は朝、仕事場に菜々子を置いていってダンナに面倒みてもらおうかどうか迷いました。前日まではそのまま置いていくつもりだったのですが、なんとなく連れていこうと思って車に一緒に乗せました。東京まで車で走っている間、咳のようなものをしていて、特に理由はないのですが、菜々子の様子が変かもしれない、という気がしていました。
午後になってから、時々、カーっと咳き込んでいると一緒にいた知人に言われ、菜々子をクレートから出して様子をみていました。この時、まさかとは思ったのですがもしかしたらブロートを起こすのでは?と思い、会場から一番近い病院はどこか人に聞いたり電話帳で探したりしていました。
それで、恐るべきことにこれが現実になってしまいました。
大慌てで駐車場に車を取りに行き、セミナー会場から15分ほど離れた病院に緊急で飛び込みました。平日で昼間だったことと、知っている獣医師がいる比較的大きな病院が行かれる範囲であったことが不幸中の幸いでした。これが全く違う地域で知った病院がなかったらどうなっていたかわかりません。
菜々子の状態は最悪でした。いつものようにガスさえ口から抜ければ普段通りケロっとしているかと思ったのが、ガスを抜いた後、頭すら持ち上げられないほど衰弱して状態が悪くなり、点滴で様子を見ても回復せず、胃からはコーヒー色の胃液すら出てきて(胃の内部に出血があることは明白)ついには手術となったのです。
私は、高齢(もうすぐ13歳)であることや心臓や内分泌系に多少なりとも問題があるために全身麻酔のリスクが高いので、切らずに済むならそのまま維持してほしいとずっと思っていました。しかし、ここまで追いつめられてしまっては切ってもらう以外に方法がなくなってしまいました。
この晩、菜々子の手術は2時間かかりました。
胃は捻転していませんでしたが、胃の上部と内部数ヶ所が壊死している状態で胃袋そのものは繰り返した拡張で伸び切ってビロビロ。人間で例えたらとんでもないくらいの胃下垂状態だったそうです。壊死部分を切除して胃袋を固定しました。
この後、4日の入院を経て現在はかなり元気にしています。
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ブロートの原因、菜々子の場合は加齢がもっとも大きなものだったとは思います。他の要因として素人なりに考えついたものは、ステロイドです。
菜々子は2000年6月に突発性血小板減少症を発病し、その後1年半ほど免疫抑制をかけていました。主に服用したのがステロイド剤です。ステロイドの副作用には筋力を弱めるというものがあり、実際に菜々子もこの病気の後に体力がガタ落ちしました。胃袋は周囲の靭帯や筋肉に支えられるようにしてぶら下がっており、長期のステロイド服用でこうした靭帯なども弱まってしまった可能性があると思います。もし菜々子のブロートの原因が遺伝的な問題であったとしたら、もっと若いうちに起こしていて不思議はないと考えています。というのも、犬種を問わず遺伝的要因からブロートを起こすケースは、もっと犬が若い時期(せいぜい4,5歳)に起こしており、ひどいケースになると、生後1年〜2年でブロートで亡くなるケースすらあるからです。
他に思いつくとしたら、この1年ほどの菜々子の様子を考えると、若い頃に比べて消化器官が衰えてきているという感触がありました。数年に1度していたかどうかの軟便や下痢がこの1年、何度かありました。消化器官の衰えが消化能力に影響し、ガスが溜まりやすくなっていた可能性もあるかもしれません。今回の緊急手術で壊死部分を切ってスッキリしたのか、今のところ胃腸の調子はかなりいいようです。切らずに済むならそのままで、と思っていましたが、ここまで繰り返すのであれば早めに胃は固定してしまった方が安心だったのかもしれませんし、あれほど胃そのものが傷つかずに済んだのかもしれません。
最終的にここまで悪くなる前にパンティング(はぁはぁと息使いが荒いこと)がひどいことも気になっていました。同じ環境にいて菜々子よりもたくさん毛を着ているリアンが特に暑がりもせず涼しい顔をしているのに、菜々子だけ呼吸が大きいということがよくありました。パンティングが激しい=それだけ空気を取り込むので胃に入りやすくなるということも後から聞きました。
胃袋は固定したので今後捻転のリスクはありませんが、ブロートはまた起こるかもしれません。食事は今のところ、少量ずつを時間をかけて一日にできる時は一日量を3度に分け、3度でできない時は2度にして、一回分を食べきるまでに小分けにしてうんと時間をかけて食べさせている状態です。
菜々子の場合はそれでも毎回、運が良かったと思います。処置してもらう病院に行くまで時間がかかっても胃は捻転しなかったし、ブロートの際には常に私が動ける状態でしたし、出先での緊急事態でもすぐ行かれる範囲に知りあいの病院がありましたから。
ここまでの経験からの教訓
1)普段から食後の犬の状態をよくみて異常がないかどうか気をつけること
2)一刻を争うので、夜でも連絡が取れて担ぎ込める病院(できればブロートの処置になれている病院)を最低でも2ヶ所は把握しておくこと
3)出先で起こる場合もあるので、出かける所の近所に病院があるかどうかできれば確認しておくこと
この上で、もし可能であればブロートの際の応急処置キットがあれば、どうしようもない時になんとかなるかもしれません。
下の写真は、病院に頼んで今後のために揃えた物です。
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