フォン・ウィルブランド病(vWD)は、遺伝性血小板機能減退症と言われることもある、出血性疾患です。この病気は人においてもよくみられる遺伝性の疾患で、人以外では、犬、猫、豚及びウサギにおいてみとめられています。プードルではミニチュアとスタンダードでこのvWD の報告があります。
犬における vWD は1977年、ドーベルマンで最初に報告され、現在ではおよそ50犬種においてみとめられています。この病気は、血液が固まる時に必要となるフォン・ウィルブランド因子(vWF)と呼ばれる血漿タンパクが不足、あるいはその機能が正常に働かないために出血しやすく、かつ、止血しにくいというやっかいなもので、命に関わる疾患です。vWD は「偽血友病」と言われることもあるようですが、性染色体が関与して遺伝する血友病とは違い、その発症に性差はありません。 症状として、粘膜部の出血(歯茎、鼻)、皮下出血(出血性のアザ)、胃腸管出血(血便)、血尿、通常より長い発情出血、怪我や切開手術などの際の異常出血、血腫、関節からの出血による運動障害といったものがみとめられています。 この病気の状態は犬種によって病気の程度に差があります。発症した際、シェルティ、スコッチでは他犬種よりも症状がより重いとされています。実は同じ病気でも type I vWD, type II vWD, type III vWD とあり、type II と type III の場合は病状が重篤になるのです。 vWD には先天性と後天性があります。後天性の場合は内分泌障害(自己免疫性甲状腺炎、甲状腺機能低下症)が関わるといわれており、甲状腺機能疾患が犬種的に多く認められる場合は、ホルモン検査も同時に行うことがすすめられています。 vWD はドーベルマンにおいては病気の発生やキャリアの割合が特に深刻な問題で、全体の約7割のドーベルマンがこの病気にかかっている、あるいは病気の因子をもっている(キャリア)とされています。VetGen のサイトにあるレポートによれば、その遺伝形態は「常染色体性劣勢遺伝」であり、予備的データを参照した時、突然変異の遺伝子は頻度として約0.6(60%)の割合で起こると考えられ、そうした場合、ドーベルマン全体の約36%がアフェクティッド(発症)、48%がキャリア、16%がクリア(ノーマル)であろうと述べられています。仮に突然変異の遺伝子の頻度が0.5となったとしても、全体数の25%がアフェクティッド、50%がキャリア、残り25%がクリアであろうと述べられています。 キャリアと診断された場合、その個体そのものは vWD を発症することはありませんので、この病気によって命が脅かされる恐れはありません。しかしながら、キャリアがキャリアと交配をした場合、生まれてくる仔犬のうち25%が「アフェクティッド」になります。キャリアがクリアの犬と交配をした場合は、生まれる仔犬のうち50%が「キャリア」、残り50%が「クリア」です。(→詳しく) |
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vWD はその遺伝子マーカーの発見により、関係犬種の一部は、非常に簡単な方法で DNA レベルでの検査が可能になりました。口腔内粘膜から細胞を採取し(小さなブラシ=チーク・スワブ でこする)それを検査してこの病気の因子があるかどうかを調べます。 vWD の DNA 検査は現在、アメリカの VetGen のみで行われており、細胞採取に必要なキットを入手すれば日本からもサンプルを郵送して診断してもらうことが可能です。 vWD は子孫に引き継がれる「遺伝性疾患」であり、命にも関わる病気です。それゆえに繁殖を考えている場合は特に、また、繁殖は考えていなくても病気の因子があるかないかを知っておくことは自分の犬の健康状態を知るためにも、犬種の将来の為にも有効です。 現在この DNA による診断が可能なのは、ドーベルマン、プードル(3バラエティ)、マンチェスター・テリア、コーギー(ペンブローク)、シェルティ、スコッチ・テリア、バーニーズマウンテンドッグ、ケリーブルー・テリア、パピヨン、ジャーマン・ピンシャー、Drentsche Patrijshondです。(2006年6月時点) |
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VetGen のサイトから、VetGen Pricing and Ordering フォームをプリントアウトして必要事項を記入し、ファックスか郵送で依頼書を送ると、ラボから書類とチークスワブが3本送られてきます。支払いはプリペイドです。(Visa 及び MasterCard のクレジットカードか国際郵便為替を送りますが、クレジットカードが一番便利です)
テストキットは、小さなブラシで、犬一頭につき3本使用します。このブラシで口腔内の細胞を採取します。 まず、サンプルを取る前に手を洗ってください。 ブラシはプリペイドになっていますので、vWD のテスト用に返送するだけならD欄とその下の#1だけを記入するだけで終りです。 6)最後に返信用封筒に用紙とブラシを入れて郵便で送ります。 |
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サンプルの取り方は、上記のように実に簡単です。なお、ブラシにエサのカスなどがつかないように、サンプルを採取する際は、食前に採るようにしてください。このテストは、生後1ヶ月から可能です。仔犬の場合は、授乳させる前に採取してください。 診断結果は、「クリア」「キャリア」「アフェクティッド」のいずれかになります。 「クリア」は、vWD の因子を全くもっていない個体、「キャリア」は、発症はしないが子孫に遺伝する病気の因子を持っています。「アフェクティッド」は vWD に冒されている個体です。
vWD は、症状が重ければ命に関わる重大な疾患であり、たとえ発症しないキャリアであっても交配して仔犬が生まれれば、病気の因子は確実に子孫に引き継がれる「遺伝性」疾患です。病気の有無は、検査をしてみなければ誰もわかりません。ましてや症状の現れないキャリアの存在は検査なしでは知るよしもないのです。 とはいえ、「キャリア」の個体でも将来の血統のため、犬種の質の維持のために必要と思われる犬は繁殖に使えます。ただし交配相手は必ず「クリア」の犬にすること、そして生まれた仔犬全てに vWD 検査を行います。クリア×キャリアの場合、生まれてくる仔犬の50%がクリア、残り50%はキャリアになります。その中から確実に将来繁殖に使う犬は「クリア」の犬のみと、選択をしていくことが必要になります。こうすることにより、将来にわたって病気の発生も押さえることが可能なのです。(→詳しく) 犬種の将来のため、そしてアフェクティッドの犬が苦しみ、さらにその飼い主が悲しく辛い思いをしないためにも交配前の検査の重要さをわかっていただければ、と思います。 |
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なお、検査結果は OFA のデータベースに登録することができます。VetGen からはテストレポート(右の写真)が送られてきます。 |
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