vWD の遺伝法則

 vWD は常染色体性劣勢遺伝と、遺伝モードが判明しています。(注)そのため、子孫への病気の遺伝法則は、下記のとおりとなります。

◆クリア×クリア
  生まれてくる仔犬全てがクリアで、病気の心配はありません。

クリア×キャリア
  50%がクリア 残り50%はキャリア

クリア×アフェクティッド
  全てキャリア(クリアなし)

キャリア×キャリア
  25%がアフェクティッド 50%がキャリア 25%がクリア

キャリア×アフェクティッド
  50%がアフェクティッド 残り50%がキャリア(クリアなし)

◆アフェクティッド×アフェクティッド
  全てアフェクティッド(クリアなし)

 なお、キャリアは vWD を発症しませんので、出血が原因で死に至るということはありません。
 上記の繁殖モデルのうち、◆(赤)のものは、危険度が高くすすめられない繁殖パターンです。◆(ピンク)は、生まれてくる仔犬全てについてきちんと検査を行い、繁殖計画の中でクリアのものだけをピックアップするという前提に基づいている場合のみ可能なパターンと言えます◆(オレンジ)は、よほどのことがない限りすすめられない繁殖で、特に次世代の繁殖の際にと同じ慎重な見極めが必要です。

 ここで注意すべきことは、上記はあくまでも机上で計算できる割合である、ということです。つまり、例えばキャリア×キャリアの時に生まれた仔犬の数が8頭として、計算上では「4頭がキャリア、2頭がアフェクティッド、残り2頭がクリア」となるわけですが、必ずしもこの数字通りにきれに結果が揃うとは限らないのです。最初の繁殖の時、もしかしたら全部がキャリアかもしれません。それで安心して次に同じ繁殖をした時、今度は半分の4頭がアフェクティッドになる可能性もある、ということです。あるいはその逆で、もしかしたら大変ラッキーで全てがクリアかもしれません。これこそまさに「神の領域」です。繁殖は良くも悪くも全てが計算通りにいかない、ということを念頭におくべきでしょう。

 ちなみにこの遺伝の法則は、PRA、SA でも同じです。

(注):先日、血液学の Dr. Bernard F. Feldman に尋ねたところ、Type II、Type III は常染色体性劣勢遺伝であるが、type I においては常染色体性「優勢遺伝」もあるという話でした。優勢遺伝の場合、キャリアがなくなるため(vWD の遺伝子があれば、affected になる)ますます検査による計画的繁殖が必要となります。type I の場合、vWDの遺伝子をヘテロでもっていると(劣勢遺伝の場合の、キャリアの状態)軽いが、ホモ(アフェクティッド。2つの遺伝子両方がvWDの遺伝子をペアで持っている)の場合、症状が激しく、若くで亡くなるケースが多いとのことです。この遺伝形態の点について、他に文献などがないかどうか、詳細について調査中です。なお、ほとんどの犬種が type I vWD です。


血液検査とDNA 判定以外の検査方法について

 血液検査では、血中のフォン・ウィルブランド因子(vWF)の割合が測定されます。スタッド広告などで「vWD 78%」などと書かれているのがそれです。この数値が低いほど、血中の vWF の数が少ない=止血しにくい、ということが言えます。

 血液検査による診断では、vWF が70〜100%は「ノーマル」の範囲 50〜69%は「ボーダーライン」の範囲 0〜49%は「アブノーマル(異常)」の範囲 というのが診断の基準となります。「ボーダーライン」が果たして「キャリア」であるのか、または「クリア」なのか、数値のみで明確にすることは実際は難しいことです。というのも、最初のテストで数値が「ボーダーライン」の範囲を示した犬が、二回目のテストで「ノーマル」の数値を示すこともあり得るからです。
(参考:Cornell 大学資料

 また、この数値はある意味トリッキーで、犬の状態によって左右されます。
 例えば、犬がストレス下に置かれた時、また、運動直後ではこの数値が高くなることがわかっています。「アブノーマルの範囲」の数値しかない犬でも、このような状態で採血して検査をすると、正常範囲まで数値が上がるそうです。また、発情中のメス、ワクチン接種後2〜3週間の採血は正常な数値が得られないそうです。そのため、血液検査の数値は確実と100%言い切れません。

 現在、DNA 以外に確実な方法として用いられているものに、出血してから止血するまでの時間を測る方法があります。これは、特定のキットを使用して犬の口腔内(唇の裏側)2ヶ所に一定の傷をつけ、その傷からしみ出てくる血が止まるまでの時間を正確に測定するものです。このテストにおいては、止血するまで1.7〜2.4 分が正常と言われています。テストキットに関してまた詳細がわかり次第、こちらに追記いたします。

 DNA 診断ができない犬種では、この止血時間を測る方法が一番信頼できそうです。


注意すべき薬剤

 vWD affected の犬に対しては、血液凝固に影響を及ぼす(凝固を阻止)ような薬剤類、例えば非ステロイド系抗炎症剤などの使用は避けるようにするべきです。そのような薬剤には、例えばアスピリン、ヘパリン、サルファ系抗生物質といったものがあります。(参考:Cornell 大学資料血液凝固作用に関わるものだけでなく、血小板減少症の引き金となりうる薬剤や生物製剤も避けるべきともされており、それらには例えば、生ワクチン、エストロゲン、ワルファリンといった名前が挙がっています。(参考:vita-tech


遺伝性疾患トップページへ戻るvWD トップページに戻る

Copyright (c) 2000-2004, Phoebe N. Habu, all right reserved.