獣医学調査によって、1987年にスタンダード・プードルにおいてSA がみとめられました。特定の毛色のスタンダード・プードルにのみこの病気は発症するというのは誤解で、現実にはどの毛色のスタンダードにもみられる病気です。PCA の援助によってミシガン州立大学で行われた SA のテスト・ブリーディングの結果、その遺伝形態は常染色体性単純劣性遺伝であろうといわれてきました。しかし、これについては以前から多くのブリーダーが必ずしもそうとは限らないという認識を感じていたことは事実です。(遺伝モードは不明とする説もあります)
 SAの遺伝モードの解明については、現在イギリスのAnimal Health Trust がスタンダードプードルのサンプルを収集して研究中です。2008年の中間報告によるとSAは複雑な病気であり、そのため関与遺伝子が複数あるか、あるいは遺伝子(複数)と環境との相互作用によって発症するものではないか、とのことです。これにより、SAの遺伝モードは、今まで言われてきた常染色体劣性遺伝ではないとしています。これ以上は、更にサンプルを集めての研究が続けられるようですが、関与遺伝子を発見するまでにはまだ時間がかかりそうです。(参照:http://standardpoodleclub.com/sa.html
 アメリカのUC Davis でも Animal Health Trust と共同で研究を進めています。

 統計によれば、少なくとも50%のスタンダード・プードルが SA のキャリアか、SA を実際に発症しています。それゆえに繁殖に用いる、用いないに関わらず全てのスタンダード・プードルが毎年皮膚生検をすることがとても重要なのです。この方法のみが、現在、外見では正常に見える犬が潜在的にSA に冒されているのかどうか(表に現れない=キャリア=サブクリニカル かどうか)を知る唯一の方法です。スタンダード・プードルの仔犬を手に入れようとしている人達は、まず、その両親犬の SA テストの結果のコピーをブリーダーから入手してください。
 SA の診断方法については、スキン・パンチ以外の方法がないかどうか研究が続けられています。

あなたに今できることは?

 GDC(The Institute for Genetic Disease Control in Animals = 強いて訳せば「遺伝性疾患管理協会」)ではスタンダード・プードルにおけるSAのオープン・レジストリー(注:下記参照)を長年行ってきました。2002年夏より、GDCでの登録と今までのデータベースは、全て OFA に移行されています。そのため、今後の SA の登録は OFAにて行われることになりました。
 SA が疑われるスタンダード・プードル、または、繁殖の計画があるスタンダード・プードルのブリーダーやオーナーはぜひ皮膚生検を行ってください。診断は、生後12ヶ月以降から可能です。
 登録のためには、OFA が認定する皮膚病理医が診断した生検サンプルが必要です。登録の際に必要な書類は、OFA から取り寄せてるか、OFAサイトにてpdf ファイルよりプリントアウトが可能です。

 1990年に設立された GRF(The Genodermatosis Research Foundation = 敢えて日本語にすれば「遺伝性皮膚疾患調査財団」)は病気に対する理解や診断、処置、治療を通して犬の苦しみを緩和するための研究と遺伝性皮膚疾患の防止ため、情報や科学的な支援を行ってきていましたが、残念ながら現在、解散しています。DNAによるSAの診断の可能性がないか、アメリカでは引き続き現在も研究は続けられています。

日本からアメリカへ診断のため生検サンプルを送りたい方は「SA の診断と登録手順」を参照してください。

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photo of an sa affected SP

日本のスタンダード・プードルとSA

 現在の日本におけるスタンダード・プードルの血統ライン(先祖)はその多くがアメリカからの輸入犬です。アメリカで問題になっている疾患はそれゆえに、いつ国内で発生してもおかしくありません。事実、日本においても SA と診断されたスタンダード・プードルの例がいくつかあり 私が知る限りで、1990年代初頭頃から日本での発症が報告されています。近年(2000年以降)は、スタンダードプードルの数が日本で増えたこともあるためか、SA発症の話も以前より出てきています。

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SAの診断

 OFAでは、診断の結果を以下の4つに分けています。

  ノーマル:『診断時において』SAの兆候は見られない。
  アフェクティッド:SAを発症
  サブクリニカル:外見上はノーマルであるが、実際はSAに冒されている
  判断不能(Equivocal):炎症は見られるが、その炎症の原因がSAと直接関係があるかどうかはっきりしないもの

 遺伝子レベルでの確定診断が現状ではできないため、例え診断時はノーマルであっても、SAの診断は継続的に行うべきものです。実際にずっとノーマルの判定をもらっていた犬が、数年後にSAを発症したという例がアメリカではあります。

サブクリニカル(キャリア)と検査について
 今回サブクリニカル(subclinical)という言葉を「キャリア」と書きましたが、この点について簡単に説明をしておきます。
 subclinical = 潜在的に病気の要素を持ちながら、実際に目で見える形では発症していない状態のことをさします。subclinical の犬は SA の因子をもっていますので、繁殖に使った場合、病気の遺伝子を子孫に受け渡します。それゆえに外見上は異常がみられない犬でも繁殖を考えている場合は特に事前に検査をすることが大切なのです。
 このように病気の因子をもちながら表面上はノーマルに見える犬が将来 SA を確実に発症するのか、あるいは発症せぬまま生涯を終えるのかはケース・バイ・ケースで、現在まだはっきりしていないようです。それというのも SA がはっきりとスタンダード・プードルにおいて認められたのが今からわずか13年ほど前。遺伝性疾患が疑われるとして、その遺伝形態の調査などテスト・ブリーディングを含めて詳しい研究が始まってからもまだ10年になるかならないかだからです。今後もっとこの病気については究明されていくことが期待されていますが、GDC がSAの登録をしていた時は、生後18ヶ月以降、4歳までの犬については毎年バイオプシー検査を、それ以降の年齢になった犬には2年に1度ずつの検査をすすめていました。(現在OFAにおいては、12ヶ月以上より診断と登録を受付)
 SAの診断については現在、皮膚生検ではなくDNA 解析による診断(遺伝子診断)ができないかどうか、その遺伝マーカーを発見する研究が続けられています。

 私個人ができうる範囲で調べた限りにおいて日本では subclinical、もしくはEquivocal の診断ができる専門医はいないと思います。(注:下記参照)そのため、繁殖を考えて検査するのであれば、その診断をアメリカの専門医に依頼する以外に方法がないというのが現実です。アメリカの専門医による診断を希望される方は、次ページ「SA 生検診断について」を参照してください。

オープン・レジストリー
 オープン・レジストリーでは、遺伝性疾患(障害)をもった犬も、もっていない犬も全てのデータ登録をして、そのどちらの情報も希望者に提出しています。遺伝性疾患に関する登録は、例えば股関節などは OFA、目の疾患に関してはCERF といったところがありますが、OFA や CERF が正式に登録して一般に発表する個体データは正常と診断された犬のデータのみです。つまり、もしも OFA にレントゲンを提出して股関節が悪いと診断された場合、その犬のデータは関係者以外に知らされることはありません。これに対してオープン・レジストリーでは全てを登録して求められれば公表するため、繁殖を考える者にとって遺伝性疾患のより正確なデータが必要な場合は大いに役に立ちます。
 現在、OFA については「セミ・オープン」というシステムに変更になりました。正常と診断された犬の一般へのデータ公開は従来通り。障害があると診断された場合、その犬のオーナーがそのデータ公開をするかしないか選択できるようになっています。
 GDC では、このオープン・レジストリーを採用しており、KinReport を請求すれば、GDC に登録されている犬の遺伝性疾患についての情報を入手することができます。イギリスのスタンダード・プードル・クラブでは SA のオープン・レジストリーを実施しており、affected のリストには有名犬舎の犬や、affected と診断された犬の両親の中には過去に名を成した有名チャンピオン犬の名前もみることができます。
 SAのオープンデータベースは、フィンランドのプードルクラブで、ネット上で公開されています。


スタンダード・プードルのオーナー特にブリーディング・プランをお持ちの方へ

 どうか、ご自分には関係ないと思わないでください!日本でもSAを発症しているスタンダード・プードルがいます。日本のスタンダードの血統ラインはまだ狭く、特に数年前まではそのほとんどが親戚縁者と言ってよいほどの状況でした。現在でも日本におけるスタンダード・プードルの血統は例えばラブとかゴールデンなどと比べて決して多くありません。SA はもはや対岸の火事ではありません!
 プードルの将来のため、繁殖計画のある方は特に SA の診断について真剣に考えていただきたいと思います。

<注>
 実際にアメリカの専門医に皮膚サンプルを送り、外見上は何ら問題がなくとも、結果としてEquivocal、subclinical という診断で戻ってきた子達がいます。最近、日本で診断をして「クリア」だと言う話があります。もし、日本でも全く同じ診断ができて信用できるのであればよいのですが、私個人は現時点ではOFA認定医以外の診断については不確実かもしれないと感じており、繁殖を考えているのであればアメリカでの診断をおすすめします。このサイトを見ても送り方がわからない、という方がいらっしゃればお手伝いしますので是非申し出てください。

2000年5月
改訂:2003年5月
2005年6月
2008年2月
2009年1月


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